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森の中で暮らす

by Yuki Hattori

山梨県北杜市。八ヶ岳の南麓に位置する田舎町の、そのまた外れの森の中に家を買った。役所でもらった広報誌には、大きな向日葵の写真と一緒に「日照時間日本一」と誇らしげに書いてあったけれど、引っ越してからまだ一度しか青空を見ていない。

「なんで山梨なの?」

ここ数ヶ月、何度となく同じ質問を受けては、取ってつけたような答えを返している。答えが自分でもわからない。どうしても山梨に住みたかった、というわけでもない。畑ができる広い土地と、窓から見える自然があればどこでもよかったし、田舎暮らしに憧れてはいたものの、もう少し先のことだと考えていた。

家は「縁」だと、不動産屋をしている従兄弟は言う。それならば、頭の中に描いたイメージそのままの姿で、完璧なタイミングで現れたこの家には、何かしらの縁があると考える方が自分にとっては自然だったので、「じゃあそれに乗っかってみるか」と、案外そんな思いつきが本当の理由だったりもする。家を買うときなんてみんなそんな感じでしょ。違うのかな。

ここ数年、働きかた改革!の大合唱のもと、リモートワークやテレワークなど新しい働きかたが注目されている。ITの恩恵によって仕事をする「場所」への制約はずいぶん緩くなった。特に僕のようなフリーランスという業態であればなおさらで、「どこでも仕事ができていいよね」そんな言葉をかけられることはよくあるし、実際、空港内にある猫の檻の中、というわけの分からない場所で仕事をしていた時期もある。そして何より、僕はいま自宅で仕事をしている。

ただ、このスタイルを数年続けた実感としては、「どこでも」というのは実は難しい。

確かに作業だけならネット環境とMacBookさえあればできる。内容によってはネットもMacもいらないこともあるだろう。でも、人との出会いがなければ仕事は成立しないので、あまりに辺鄙なところで仙人みたいな暮らしをするわけにはいかないし、都会へのアクセスもある程度良好にしておきたい。それに、遠くにいる僕にあえて仕事を頼む「理由」を常に作り続けるためには、源泉となるインプット、つまり経験や知識、発見、感動などが必要で、それはどこでも得られるものではない。

僕がかつて働いていたオーディオの世界では、良い音を突き詰めていくと最終的に「電源」に行き着く。つまり質の良い電気を安定して供給することが良い音の絶対条件で、良質なアウトプットを考えるとき、こだわりの強い人ほどインプットの質に気を使う。

──  人間も、何を見て、聞いて、食べるかにもっと真剣に向き合うべきなんじゃないだろうか。

そんなことを考えながら、自分へのインプットの質が低下していることに、ここ数年とても焦っていた。夜な夜なクラブで遊んでいたときや、バリ島で暮らしていたときには刺激なんてそこら中に溢れていたし、クリエイティブの種は拾いきれないほど落ちていた。生まれ育った名古屋の町に帰り、家族や友達の近くで暮らせたことは僕を大いに安心させたけど、それは同時に刺激を失うことでもあった。

だから思い切って、インプットを森の暮らしに求めることにした。

足の裏で感じる土のテクスチャや、日々変化する木々の色、山に沈む夕日のグラデーションや、薪ストーブの炎のゆらめき。都会に溢れるノイズを含んだ手垢まみれの情報ではなく、ノイズレスでクリアな情報に囲まれて暮らすことで、自分が何を感じ、どんなものを生み出せるのかを見てみたい。

ということでしばらく、山梨で消耗してみようと思う。



Yuki Hattori
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